飛行機の免許には、学科試験と同じくらい大事なのに、誰も代わりに手配してくれない関門があります。航空身体検査です。
航空身体検査とは、国が定めた基準で、目・耳・心臓・脳などが操縦に支障ない状態かを調べる検査を指します。
スクールに申し込めば勝手に受けられるものではなく、自分で機関を探して、自分で予約して、自分で受けに行きます。
そして、ここで基準に届かなければ、学科に受かっても操縦はできません。
目次
免許を取るなら先に航空身体検査を受ける
結論から先にお伝えします。自家用操縦士の免許を取るなら、まずは航空身体検査を受けましょう。
理由は以下の3つです。
理由1 約600万円の前に、3万〜5万円で先に知れる
免許までの関門を並べると、身体検査だけが先に片づけられることが分かります。
| 関門 | いつ受けられるか | いくら | 自分だけで進められるか |
|---|---|---|---|
| 学科試験 | いつでも(年6回) | 受験料のみ | ○ 独学でできる |
| 実技 | スクールに入ってから | 約600万円の中 | ✕ スクールが要る |
| 航空身体検査 | スクールに入る前でも受けられる | 3万〜5万円 | ○ 自分で予約して受ける |
約600万円を払ってから「基準に届かなかった」と分かるのと、3万〜5万円で先に知るのとでは、取り返しかたが違います。
理由2 スクールに入る前に、自分ひとりで受けられるから
身体検査は、スクールの入校手続きから独立しています。
指定を受けた機関に自分で申し込めば、免許を取ると決める前でも受けられます。
逆に言えば、誰も「そろそろ受けてください」と言ってくれません。費用や学校の情報に比べて、この関門の情報が出回っていないのはそのためです。
理由3 早く受けるほど有効期間が長く使える
同じ検査でも、受ける年齢で結果の有効期間が5倍変わります。40歳未満なら5年、40代は2年、50歳以上は1年。
しかも上限があって、42歳の誕生日の前日まで。
39歳で受けると実質3年、35歳なら5年まるごと使えます(2章で表にしました)。
受けると決めているなら、早いほど条件が良くなります。
ここからは、航空身体検査の中身を見ていきましょう。
1. 自家用なら「第2種」でよい
| 資格 | 身体検査基準 |
|---|---|
| 定期運送用操縦士・事業用操縦士・准定期運送用操縦士 | 第1種のみ |
| 自家用操縦士・一等航空士・二等航空士・航空機関士・航空通信士 | 第1種または第2種 |
仕事として飛ぶ人は第1種、自分のために飛ぶ人は第2種。以下はすべて第2種の数字です。
これはVEGAに限った話ではありません。日本で小型機を操縦する人全員が通ります。
出典:航空法施行規則 第61条の2第1項/国土交通省「保有する技能証明の資格と身体検査基準及び航空身体検査証明書との関係」(2026年9月5日確認)
2. 有効期間は40歳未満5年・50歳以上1年
| 検査を受けた年齢 | 検査結果の有効期間 |
|---|---|
| 40歳未満 | 5年、または交付日から42歳の誕生日の前日までの短いほう |
| 40歳以上50歳未満 | 2年、または交付日から51歳の誕生日の前日までの短いほう |
| 50歳以上 | 1年 |
出典:航空法施行規則 第61条の3第1項(2026年9月5日確認)
ここで効いてくるのが「短いほう」。年齢ごとの実際の長さはこうなります。
| 受けた年齢 | 表の期間 | 上限で切られると | 実際の長さ |
|---|---|---|---|
| 35歳 | 5年 | 40歳(42歳前まで届く) | 5年まるごと |
| 39歳 | 5年 | 42歳の誕生日の前日 | 実質3年 |
| 45歳 | 2年 | 47歳(51歳前まで届く) | 2年 |
| 51歳 | 1年 | — | 1年 |
35歳と39歳では、4歳の差で2年ちがいます。
💡 身体検査の期限とあわせて、操縦を続けるには2年ごとの技能の審査もあります。免許そのものに期限があるかをまとめました。
3. 検査は会社の健康診断より項目が多く、脳波もある
| 項目 | |
|---|---|
| 全身 | 身長/体重・尿検査・胸部エックス線検査 |
| 循環器 | 血圧・安静時心電図 |
| 神経 | 脳波検査 |
| 眼 | 外眼部・眼球附属器・中間透光体/眼圧・眼底・遠見視力/近見・中距離視力/輻輳/視野/色覚 |
| 耳鼻 | 耳鼻/純音聴力/語音聴力 |
会社の健康診断より項目は多く、人間ドックほど多くはない規模です。
ただし脳波検査は健康診断にありません。初回はここに時間がかかり、費用も上がります。
このうち、条文で数字が決まっているのは視力・聴力・色覚の3つです。順に見ます。
視力は第2種なら各眼0.7以上
視力検査には、以下の3つの項目があります。
| 呼び名 | 見る距離 | 操縦席での場面 |
|---|---|---|
| 近見視力 | 30〜50cm | 手元の地図やチェックリストを読む |
| 中距離視力 | 80cm | 計器盤の数字を読む |
| 遠見視力 | 外 | 他機・滑走路・地形を見る |
基準の数字はこうです。
| 第1種 | 第2種 | |
|---|---|---|
| 裸眼の遠見視力 | 各眼0.7以上 かつ両眼で1.0以上 | 各眼0.7以上(両眼1.0の要件なし) |
| メガネで矯正する場合 | 0.7以上 かつ両眼1.0以上に矯正 | 0.7以上に矯正できればよい |
| 近見視力 | 80cmで0.2以上+30〜50cmで0.5以上 | 30〜50cmで0.5以上のみ |
メガネをかけていても受けられます。条文は「常用眼鏡を使用し、かつ予備の眼鏡を携帯することを条件とする者に限る」。
予備を持ち歩くことが条件です。
レンズの度数にも制限があり、各レンズの屈折度が±8ジオプトリーを超えない範囲と定められています。
ジオプトリーはメガネの度数の単位で、眼鏡店の処方箋に「S−3.00」のように書かれている数字がそれです。
聴力の基準は2通りで、一方を満たせばよい
聴力の検査は全員が受けます。ただし基準が2通りあります。
計器飛行証明(雲の中など、外が見えない状況で計器だけを頼りに飛ぶための資格)を持っているかどうかで変わります。
自家用操縦士を取ったばかりの段階では持っていないので、ここに載せるのは「持っていない人」の基準です。
満たし方は2つあり、どちらか一方でかまいません。
満たし方1 機械で測る
| 第1種 | 第2種 | |
|---|---|---|
| 基準 | 35デシベルを超える聴力低下がない | 45デシベルを超える聴力低下がない(10デシベル緩い) |
| 測る条件 | 静かな部屋(暗騒音50デシベル未満)/各耳500・1,000・2,000ヘルツ | 同じ |
デシベルは音の大きさの単位です。
ここでの数字は「どれだけ小さい音まで聞こえるか」を表しています。
数字が大きいほど基準は緩くなります。第2種のほうが10デシベルぶん緩い、というのはそういう意味です。
満たし方2 会話で確かめる(第2種)
数字だと分かりにくいので、条文にはこちらの確かめ方も書かれています。
| 静かな部屋で、2メートル後ろから普通の大きさの声で話しかけられて、両耳で聴き取れること |
|---|
これが満たせれば、機械の数字は満たさなくてかまいません。日常の会話が普通にできていれば、まず引っかからない基準です。
色覚は数値の基準がなく、指定医が判定する
条文は「航空業務に支障を来すおそれのある色覚の異常がないこと」とだけ定めていて、数値の基準はありません。判定は指定医が行います。
出典:航空法施行規則 別表第四(第61条の2関係)・2026年9月5日確認
身長の数字の基準は無い
身長は検査で測りますが、別表第四に身長の数字の基準はありません。体のつくりについて書かれているのは次の2つで、第1種と第2種で同じ文です。
| 別表第四「一般」の項目(体のつくり) |
|---|
| 頭・顔・首・胴・手足に、航空業務に支障を来すおそれのある奇形・変形・機能障害がないこと |
| 航空業務に支障を来すおそれのある過度の肥満がないこと |
「背が低いと免許は取れない」という数字の線は、条文にありません。
結果は、基準に合えば指定医から証明書が出る
検査の結果が出たあとの流れは、基準に合うかどうかで2通りに分かれます。
| 結果 | その後の流れ |
|---|---|
| 基準に合う | 指定機関で受けた検査の結果をもとに申請し、指定医から航空身体検査証明書が交付される |
| 基準の一部に合わない | 国土交通大臣の判定を申請する。外部の有識者でつくる航空身体検査証明審査会(月1回)が審査する |
申請は、検査を受けてから1か月以内に行います(施行規則第61条)。
基準の一部に合わなくても、経験と能力から運航に支障がないと国土交通大臣が認めれば、基準に合うものとみなされます(施行規則第61条の2第3項)。
2026年の審査会の予定表では、指定機関から航空局への資料の締切から開催まで2〜3週間、証明書の発行予定はどの月も開催日の2日後。
出典:国土交通省「航空身体検査証明制度について」「令和8年(2026年)航空身体検査証明審査会の開催予定日について」・航空法施行規則 第61条・第61条の2(2026年10月11日確認)
4. 受けられるのは指定機関だけ
近所の内科では受けられません。国土交通大臣が指定した機関と医師でなければ実施できないためです。
| 指定の種類 | 条件 |
|---|---|
| 指定機関 | 病院・診療所であること/検査を行う医師がいること/必要な設備と器具があること |
| 指定医 | 5年以上の臨床経験/指定機関に所属/国土交通大臣の講習会に出席 |
指定の有効期間は、指定医・指定機関とも3年。
国土交通省のページは項目が多く、目当ての一覧にたどり着きにくいので、PDFを直接置きます。
| 一覧 | 中身 |
|---|---|
| 指定航空身体検査医 一覧(PDF) | 検査を行える医師。都道府県別 |
| 航空身体検査指定機関 一覧(PDF) | 検査を受けられる病院・診療所。都道府県別 |
| システムで申請できる指定機関 一覧(PDF) | 電子申請に対応している機関。料金が安くなる機関があります |
まず「指定機関 一覧」を開いて、通える範囲にあるかを見てください。
出典:国土交通省 航空従事者の医学適性や航空身体検査の証明について(2026年9月9日にPDFの所在を確認)
5. 費用は機関ごとに違い、17,300円の差が出る
国土交通省の資料に検査料の定めはなく、各医療機関が自分で決めています。料金がページで分かる指定機関が2つあります。
| 機関 | 新規 | 更新 |
|---|---|---|
| 小原病院(東京都中野区) | 47,300円(電子申請46,200円)※脳波あり | 35,200円(電子申請34,100円)※脳波なし |
| たぐち脳神経外科クリニック | 30,000円 | 25,000円 |
2機関で新規の額が17,300円ちがいます。だから「相場は◯万円」とは書けません。
受ける機関を決めたら、その機関の料金を直接確かめてください。
小原病院は第2種を選ぶ場合は各1,100円引きと明記しています。
初回は脳波検査が入るぶん高く、更新では外れる組み立てです。1回目が一番高くなります。
金額はいずれも2026年9月5日に各機関のページで確認。
6. 先に受けるほうが得で、気をつけるのは時期だけ
先に受ける良さ
| 良さ | 中身 |
|---|---|
| お金 | 約600万円を払う前に、通るかどうかが分かる |
| 期間 | 40歳未満のうちに受ければ有効期間が5年。40歳を過ぎると2年、50歳以上は1年 |
| メガネ | かけていても受けられる。視力で諦めていた人は、まず数字を見てほしい |
気をつけること
| 何を | 中身 |
|---|---|
| 費用 | 初回は脳波検査が入るぶん高く、3万〜5万円。スクールに入らないまま払う |
| 期限 | 有効期間は受けた日から進む。入校が何年も先だと、切れて受け直しになる |
それでも、先に受けるほうが得です。気をつけるのは時期だけ。
入校が3年も4年も先になりそうなら、有効期間が切れないように、受ける月だけ考えてから予約してください。
まとめ:航空身体検査は、すぐに受けよう
- 学科試験と同じくらい大事なのに、自分で予約して受けに行く関門
- スクールに入る前に受けられる。3万〜5万円
- 自家用なら第2種。視力は各眼0.7以上、メガネ可(予備の携帯が条件)
- 聴力は2メートル後ろからの会話が聞き取れれば足りる基準がある
- 有効期間は40歳未満5年/40〜50歳未満2年/50歳以上1年
- 指定機関でしか受けられない。費用は機関ごとに違い、確認した2機関で17,300円の差
- 身長の数字の基準は無い。基準の一部に届かなくても、大臣の判定(月1回の審査会)で認められる道がある
判定を行うのは指定医です。
今日は指定機関の一覧を開いて探す
- 指定機関の一覧(PDF)を開いて、通える範囲にあるか見る。都道府県別に並んでいます
- 見つけたら、その機関のページで料金と予約方法を確かめる。料金を載せていない機関もあります
- 40歳が近いなら、入校の時期を決める前に受ける。誕生日をまたぐと有効期間が2年に落ちます
学科は身体検査と並行して進められます → 学科試験の過去問と教材
💡 身体検査から実地試験まで、免許を取る順番を条文から並べました。
VEGAが飛べる日に、自分が飛ぶために
引き渡しは2029年より順次。免許の取得には6か月から1年3か月かかり、学科試験は年6回しかありません。
機体が届いてから動くのでは間に合いません。
しかもこの免許は、VEGAを待たずに今すぐ役に立ちます。取ってしまえば、いま日本で飛んでいる小型機を操縦できます。
- 費用を知る → 飛行機・セスナの免許はいくら
- 学校を選ぶ → スクール選びの実践ガイド
- 学科を先に片づける → 学科試験・完全案内所|かこもんWEBで解く
- 今日から腕を磨く → コントローラーの買う順番
